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「ようこそ子猫ちゃん....。」
その男を一目見た瞬間、私は身体中に電気が走った様な感覚に襲われた。
引き篭もりの私が、人生初のクラブとやらに足を踏み入れたのだ。
日は暮れているが、恐らくオープン前であろうその大きな箱に、堂々と入ろうとする渡里。そんな彼に手を引かれて私も続く。
「他の野郎に話しかけられても無視しろ。」
「いや、ちょっと待って、なんでこんなところ⁉︎」
「俺にも色々付き合いってのがあんだよ。いいか?約束守れよ。」
半強制的に連れ去られ、着飾られ、訳も分からず辿り着いた先には、ハードル高めの高級感。
若者が犇めく街では無く、ちょっと大人な年齢層、アザブ・ギロッポン....そんな洒落乙感。
最低限の照明の灯りが、微かに辺りを照らすのみ。
引っ張られる感覚が無くなると、いつの間にやら渡里が私の隣に並んでいた。
一瞬手を離すと、その手が私の腰回りへと触れる。
「....えっ⁉︎」
「さあブスホ。お前が役に立つ瞬間が来たぜ
。」
聴こえるか聴こえないかのギリギリの独り言。
聞き返そうとしても、もう目の前には扉が待ち受けていた。
逃げるなら、最後のチャンスだったのかもしれない....。
「トラちゃんおつかれちゃ〜ん。」
そのフロア内から、真っ先に聴こえて来たのは、甘ったるいアホそうな男の声だった。
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