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ここ数週間の間に、私はいったい何人の人間と出会っただろうか。
何年も家に閉じこもった私の前に、強烈魔法使いケンシロウ(オカマ)、パーティー会場で俳優の山代 千尋にファーストキスを奪われ....。逃げた矢先で、ホテルの社長である渡里 大河と衝突。命の次に大切なスマホを紛失し、見つかったと思えば、隣の野郎に大怪我を負わせてしまったらしく、酷い目に遭わされた。
そして....。渡里に連れ回されて、やって来たのは、これまた私にはハードルが高過ぎる場所。
ラグジュアリーなフロア。特別室とでも言えば納得がいく装飾の数々。
まったりとした重低音が、密かに響き渡る室内で、その男の声が聴こえてきたのだった。
「もう遅いよ~。って言っても、あと一人到着してないけどね~。」
「すまねー。こいつ迎えに行ってたら時間食った。」
「なになに?どこの子その子。」
「まあ俺の連れだから、あんまり構うなよ?」
「なにそれ~面白い。駄目と言われたら、したくなっちゃうじゃん。どれ見せてみ?」
深々と腰掛けた銀髪が、目の前のソファーから立ち上がると、人影が私達の方向へと近づいてくる。
どうも気味の悪い口調に、私は咄嗟に渡里の背中に隠れる。
足音がもう目の前に辿り着いてはいたが、私は急上昇する心拍数を無理矢理落ち着かせようと、瞼を瞑って顔を顰めていた。
「トラちゃん、この子どこで見つけてきたのさ。」
「お前に教える義理は無いだろ。」
「本当、君は冷たいな~。ようこそ子猫ちゃん。君を歓迎するよ。」
刹那、顎を掴まれて、無理矢理に奴の背中から引き剥がされた。
そんな強行に呆気に取られた私は、勢いよく視界が開け、その男と初対面する事となった。
「....うん。合格。キミ、ボクの“女”にならない?」
白銀色のロン毛、外人相応の深々とした掘りの目鼻立ち。瞳はこんな薄暗い中でも、澄んだ琥珀色。一挙に金と銀が映り、目が離せない。
ボクの女にならない?という甘い台詞が、どうも振り仮名を振ると、危ない雰囲気しかしないのだ。
そして、何故私はこの男から目が離せないかと考えてみれば....。
ドキラブ2に出てきた王子様にそっくりなもので....。
「どうしたの?ボクの顔に何か付いてる?」
「....あっ、いやっ....えっと....あ、あの....。」
きょとんとした表情で、首を傾げる銀髪。そして、何て答えたらいいのか分からず焦っていると、
「レオ、こいつに構うな。」
私の視界が、渡里によって遮断された。
まるで、護ってくれているかの様な感覚に、少しだけこいつが良い奴に思えた。
「ちぇっ、ケチだな~。こんな可愛い子猫ちゃん独り占めしようとするなんて、トラちゃんの意地悪。」
「意地悪で結構だ。それよりも、お前の連れが寂しそうにこっち見てるぞ?」
「あ~。あの子?別にいいよ。この子の方がタイプだし....。」
なんだかよく解らないが、変な奴に出会ってしまった気がする。
渡里が、執拗に戻れと言い続けるものだから、渋々と私達の前から去って行ったレオ....と呼ばれていた変人。
「瑞穂、こっち来い。」
私を手招きする渡里。そしてボックス型の席に、レオとその横に綺麗なお姉さん....。その人を挟んで、背凭れに腕を大の字で伸ばした爆睡状態の大きな男。
そして、その他数名の綺麗なお姉さん等が居座る空間。一つだけ空いた席に二人並んで座れば、当たり前の様に渡里は、私の肩に腕を回して我が物顔で、店員の男の子に、飲み物を注文し始めた。
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