05.

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 例えるなら、私は排気ガスに紛れる淀んだ空気の一部、寧ろ酸素微粒子の一端だ。誰の目にも触れない様に、透明に染まる。  こんな時、アンジェリカ姫だったら、どうやってこの場をやり過ごすのだろうか。乙女ゲーム内のコマンドが脳裏に浮かぶことは無い。  只々容量を超過してしまったサーバーが急停止(フリーズ)して、うんともすんとも言わない。そんな心境だった。  されるが儘?マリアに厚塗りされたマスカラで重くなった目元だけど、そんな事は関係無しに、吃驚して瞳孔は開ききっていると思う。  避けれるものならば、初めから回避したかったものだ。目の前では、シンバルを持ったチンパンジーのオモチャみたいな銀髪が、掌を合わせて『きゃっきゃ、きゃっきゃ』喚いているし、初見で王子様みたいだ。とか思った私が馬鹿に思えるぐらい、奴の甲高い笑い声が耳障りである。  視界の大部分に映り込む渡里 大河の目元は、伏せられており、私がアイコンタクトで『今すぐやめろ。』と鋭い眼光で睨みつけても見やしない。  押さえつけられた後頭部が、鳴ってはいないが、めり込んだ様な音がしている気がして、妙に頭がくらくらと回り出す。  そして極め付けに、後からやって来た奴等の仲間であろう“ちーちゃん”が私達を覗き込んできた....。 ―――――目が合ったら、フラッシュバックするあの夜の出来事。  艶っつやに色めいた甘い雄の姿。忘れもしない夢の時間。初めての接吻、首筋に付けられ開花した赤色。現実では、もう二度と会う事は叶わないと思った男の姿がそこには在った。 「――――なんで....。」  悲しそうに、しゅんと垂れた眉毛。密かに漏れた彼の非力な言葉が、鮮明に私に伝わってきた。  その台詞は、私が言いたかったものだ。言いたいけれど、塞がれた手前、発する事は叶わない。    そして、より乱暴に蠢きだした渡里に、遂に肺に貯蓄していた酸素を使い切ってしまい咽返ると同時に、目から涙が溢れ出てきた....って訳だ。 「は~いトラちゃんストップね~。子猫ちゃん泣かせるのは、ベッドの上だけにしときなって.....え?」  助け舟を出すのは、チンパンジー。だけど、それよりも....山代 千尋が、血走った眼で渡里の体を強く押し退けたのだった。
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