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「汝、第一王子ノエル。先の妃の唯一の子として長らくそなたを王太子候補と定めてきたが、先だっての上申書と諸侯の意見を併せ、明日よりそなたを国境の砦に送ることとする。アカデミー騎士科卒業生として正騎士の位は授ける。戦功を祈る。その間、希望どおり王族の身分は剥奪する」
「…………ん? ちょっと待て。なんかおかしいぞ、それ」
「おかしくはないです。貴方の、たっての願いでしょう。『騎士になって最前線で武勲をあげる』という。困った兄上です」
ふう、と、やたら大人っぽく溜息をついたユーリが目を伏せ、頭を振る。なぜか下手の連中もうんうん頷き始めた。
けれど、ノエルだけは納得できない。
そうではないのだ、と、心持ち声を低めて早口に言い募る。
「いやいや、ちゃんとひとの話聞けよ。いいか? 俺は、たまたま順番が上なだけで王妃だった母はもういない。母の実家だったホルス公爵家も零落のいっぽうだ。後ろ盾のない王なんざ、国には何の益も齎さない。幸いお前はすこぶる優秀だし、妃殿下の実家はカリディア大公家。さっさと俺を戦地にやったほうがいいだろう。そのためにわざわざ、アカデミーじゃ騎士科を選んだってのに――」
「わざわざ? それは聞き捨てならないな。ノエル」
「! アドモス」
一際低い声。ごつい高身長に見るからに俊敏そうな体躯の騎士団長子息が上手から現れ、ノエルは慌てて振り向いた。
アドモスとは騎士科で苦楽を共にした。親友と言っていい。
めずらしく今朝から姿が見えず、式典も欠席していた。心配していたのだが、無事そうな姿にホッとする。
もはや空気のアニエス嬢は、果てなく疑問符を浮かべていた。
ちらりと彼女に流し目をくれたアドモスはつかつかと壇に近付き、「失礼」と断った上でノエルの二の腕を掴んだ。わりと、ぞんざいな仕草だった。
「おら。降りろ。王族じゃないんだろ、もう。ほら、アニエス嬢も」
「きゃっ!」
「待て、女性に手荒な真似は」
「……………………ちっ」
(エッ!? 何コイツ。いま、舌打ちした!?!?)
急展開について行けないのは残念ながらノエルも同じだった。強引にされるがまま、アドモスに従って壇を降りる。
アドモスは適当なところで、ぽいっとアニエス嬢を放し、代わりにノエルの耳元に顔を寄せた。
「(女性ってタマかよ。黙って見とけ、本性出すから)」
「?」
精悍な顔立ちに暗い赤毛を無造作にうなじで束ねるアドモスは女生徒からの人気が高い。
現に、今の振る舞いだけで人だかりから「きゃあああ」と複数の奇声――もとい、令嬢がたの歓声があがるのだから大したものだ。
ノエルは、ぱち、と瞬いたあと、ふと駆け寄ってきたアニエスを不思議そうに眺めた。
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