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この一年、彼女からは妙に懐かれていた。
たいていは小動物を思わせる態度が多かった。
が、このときは自然に眉をひそめるほど、記憶のどれとも印象が違っていて……――
アニエスは可愛らしい顔を歪めていた。歯噛みしかねない勢いだった。ボディガードよろしく壁になるアドモスに阻まれ、いっそう不機嫌顔となる。やや距離をあけて食い下がった。
「ノエル様! 嘘ですよね? 廃太子なんて」
「廃太子」
「厳密には、兄上は立太子していない。慣例としてそうなるだろうという空気はあったが」
やり手の弟は壇上から冴え冴えと声を降らせる。
その佇まいが惚れ惚れするほど王位にふさわしく思えて、ノエルは知らず、ほほえんだ。
「ほうら。やっぱり、ユーリのほうが王っぽい」
「――……兄上は黙ってて。アニエス嬢。きみについても調べはついている」
「なっ、何のことでしょうか」
さすがに娘呼ばわりは改めたようだが、ユーリの表情や声音は固い。しどろもどろと目を泳がせるアニエスは、それでも果敢にユーリと相対した。
本日二度目の大仰な嘆息をこぼしたユーリは、哀れみすら向けて話す。
「きみの母、アッサンドラは十七年前、とある貴人を呪い殺した疑いがかけられている。依頼だろうと何だろうと、外法のわざで人を害するのは我が国では、最も忌むべき行為の一つとされている。――きみたちの母国では、違うのかな?」
「!!! それは……っ」
さあぁ、と途端に青ざめたアニエスがぶるぶると震え始めた。同時に「連れて行け」と幼い声が告げ、下手側の衛兵たちがきびきびと動く。
しばらくは嫌がり、暴れていたアニエスも両側から取り押さえられてはひとたまりもない、引きずられるようにホールから連れ出されてゆく。
生徒たちは目の前で繰り広げられた一部始終に唖然としていたが、ざわめきはそこかしこで生まれつつあった。そこで。
――――ダンッ
(((!!)))
壇上から厳しい打音。
腰から鞘ごと剣を外したユーリが逆手に剣を構え、鞘の先をまっすぐに落とし、床を打ち鳴らしたのだ。
始まりとはちがう静寂が場を支配した。その一瞬を、ユーリは逃さなかった。
「これにてパーティーは終了する。王家の内輪もめ……という程ではないが、今夜はどうしても『彼女たち』を捕らえる必要があった。
清聴および協力に感謝する。各々、気をつけて帰られよ」
◇◆◇
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