[1-3] 真実の在り処

13/18
前へ
/308ページ
次へ
 結衣さんがその階段のほうを見つめながら、呟くように私に尋ねた。 「悠くん? よく分からないだろうけど、どっか行きたいところ、ある? 一応、言ってみて」 「そう言われても……、そうですね。(しょ)()はありますか?」 「しょし?」  ポカンとして結衣さんがこちらを向く。  私は思わず目を逸らし、それからじわりと口を開いた。 「あの、書物を……、本などを売っているところです」 「ああ、本屋さんね」  結衣さんがすーっと息を吸う。 「悠くん……、そんなに本が好きだったかな」  ギョッとした。  悠真はどのような少年だったのだろう。  もしや、書物など全く読まない男だったのかもしれない。 「え? いや、調べたいことがありまして――」 「本が好きなの? 嫌いなの? どっち?」 「いや、その、本は……、好きです」 「そう」  ほんの少し眉根を寄せて、肩に掛かった鞄の紐を左手で掛け直した結衣さん。  私はどうしたらいいのだ。  小さな溜息が出た。  結衣さんは何も言わず、その愛らしい小さな肩をくるりと回して、ひとり先に足を踏み出した。
/308ページ

最初のコメントを投稿しよう!

21人が本棚に入れています
本棚に追加