21人が本棚に入れています
本棚に追加
結衣さんがその階段のほうを見つめながら、呟くように私に尋ねた。
「悠くん? よく分からないだろうけど、どっか行きたいところ、ある? 一応、言ってみて」
「そう言われても……、そうですね。書肆はありますか?」
「しょし?」
ポカンとして結衣さんがこちらを向く。
私は思わず目を逸らし、それからじわりと口を開いた。
「あの、書物を……、本などを売っているところです」
「ああ、本屋さんね」
結衣さんがすーっと息を吸う。
「悠くん……、そんなに本が好きだったかな」
ギョッとした。
悠真はどのような少年だったのだろう。
もしや、書物など全く読まない男だったのかもしれない。
「え? いや、調べたいことがありまして――」
「本が好きなの? 嫌いなの? どっち?」
「いや、その、本は……、好きです」
「そう」
ほんの少し眉根を寄せて、肩に掛かった鞄の紐を左手で掛け直した結衣さん。
私はどうしたらいいのだ。
小さな溜息が出た。
結衣さんは何も言わず、その愛らしい小さな肩をくるりと回して、ひとり先に足を踏み出した。
最初のコメントを投稿しよう!