[プロローグ] 見知らぬ顔

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 女の声だ。  ハッとして身をよじる。  身構えた肩越しに凝視すると、その扉は音も立てずに横にずれてすうーっと開いた。 「あら、目が覚めたのね。気分はどうかしら」  顔を覗かせたのは、見知らぬ女。  ニヤリと笑ったその女が、遠慮もなしに部屋へと足を踏み入れて来る。  私はさらに肩を強張らせて、息を潜めた。 「どこか痛む?」   ずいぶん馴れ馴れしい物言い。  女のくせに、男に対してなんという口のききようだ。  女はそのままベッドのすぐ傍まで歩みを進め、それから脚の上の不思議な函に手を延ばした。 「近くに雷が落ちて衝撃を受けたんですって。ちょっと感電したみたいだけど、命に別状はないそうよ? 覚えてない?」   言葉は流暢であるし、日本人に間違いなかろう。敵意は無いようにみえる。敵の捕虜となったという感じではない。  するとやはり、ここは病院なのだろうか。  だとすれば、こやつは看護婦か?  薄い桃色のボタンのない上着に、男のようなズボン姿……、実に珍妙な格好だ。  平静を装いつつ、話を合わせる。 「いえ、覚えておりません。ならば私が見た光は稲光だったのでしょうか。しかしどこにも雷雲は――」
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