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鼻先が無く、墓石を寝かせたような真四角の大型自動車で、発動機は前ではなく後ろに載せてあるらしい。油で動いているのか、薪や石炭を燃やしている様子はない。
『発車します』
マイクロフォンを握って運転しているのか、運転士の声が拡声器から聞こえた。車掌は居ないようだ。
「結衣さん、車掌が居ないが、運賃はどうやって支払うのですか?」
「え? あたしはICカードで払うけど、持ってない人は現金で払うよ? あそこ、料金箱があるでしょ?」
料金箱?
賽銭箱のように、小銭を投げ入れるようになっているのだろうか。アイシーなんとかで払うという意味もよく分からない。
見渡すと、車内の前方に光る文字が表示された掲示板が見える。
「すみません、結衣さん。あの、前に示されている一九〇というのは……」
「あれ? 運賃が一九〇円ってこと」
「一九〇円っ?」
思わず声が出た。
運転士が、後写鏡を通してチラリとこちらへ目をやる。
隣の結衣さんは、少々眉根を寄せて私の顔を覗き見上げている。
「いや、すみません。あまりに高額でしたから」
「高額?」
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