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じっと私を見つめた結衣さんは、それから少しだけ瞳をゆらりとさせて、なにも言わずに窓のほうへ顔を向けた。
通常、バスの運賃といえば十銭かそこらだ。
一〇〇銭で一円。私の月給が五〇円そこそこだというのに、運賃が一九〇円などと聞いたら驚くのは当たり前だ。
窓の外を見ている結衣さんの表情は、こちらからは窺えない。
結衣さんの目には、この横田悠真がずいぶんと奇異な姿に映っているだろう。
そのうちに田園が無くなって、昨日見た空中列車の軌道が見え始めた。バスはその下を沿うように進んでゆく。
空中列車の姿を見て気を持ち直したのか、結衣さんがややこちらへ顔を向けた。
「悠くん、覚えてる? あれ、モノレール。よく一緒に乗ったよね」
「ああ、ものれーると言うのですね。ごめんなさい。覚えてなくて」
「ううん、いいの。覚えてるはずないよね」
そう言った結衣さんは再び窓の外へ視線を移して、それからまた押し黙った。
程なくして、周囲はまた鏡張りのような高層建築に囲まれ始め、バスはたくさんの人車が往来する市街地へと入った。
バスの頭上、同じ方向へ進む空中列車が我々を追い越してゆく。
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