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寝起きどっきり
寝起きどっきり
しばらくして、えみは寝てしまった。
俺は、自分へ引き寄せて、ぼんやり外を眺めていた。
えみは、いつの間にか寝息を立てて俺の腕を枕にしている。
思った以上、呑気かもしれない?
「えみ、着いたよ」
到着し俺が肩を揺り動かすのに、えみはピクリともしない。
「えみ、起きろって」
えみから自分の腕を引き離して、大きく揺すってみた。
「うーん、まだ、寝てる……」
えみは、甘えた声音で目を擦っている。
思わず手は止まるが、起こさないといけない。
俺が動こうとした瞬間だった。
えみは、俺の胸元に飛び込んできた。
「!?」
寝ぼけているえみに、俺は呆気とする。
それでも起こさないといけないので、俺は我に返った。
「……えみ、着いたって」
「……もう、朝起きるの弱いって……。先に起き……」
えみは、はっと我に返ると言葉を切る。
一瞬、硬直して、目をぱちくりさせた。
ちらりと、呆気としてる俺を見る。
えみの顔は、林檎のようにみるみるうちに真っ赤に染まった。
「ご、ごめんなさい!」
えみは、震えた声音で謝ると、 慌てて俺から離れた。
俺を誰かと間違えた?
心の中で現況を反芻した俺は、胸の奥がチクリと痛むのを覚えているのに、目の前の赤くなっているえみにときめいてもいる。
胸の高鳴りを抑えきれない。
「……えみ、目覚めた? 着いたよ」
俺は、どうにかこうにか冷静さを装った。
「ご、ごめんなさい。わ、私、寝起きが悪くって……」
えみは、しどろもどろになっている。
「ほら、外出よう」
俺は、そう言って立ち上がる。
頭上の荷台から、自分とえみのリュックサックを拾い上げた。
えみは、困惑顔で俺を見ている。
「えみ、さあ、行こう」
「ありがとうございます」
えみは、俺から自分の荷物を取り相変わらずおっとりとした声音でお礼を言った。
俺は、自分の片方の手があいていたので、立ち上がった小さな手を握りしめた。
どうしたものか、さっきの甘ったるい声音が耳に残っている。
他にも何か言おうにも、言葉が出てこない。
間違えられたショックと、あの時のえみの可愛らしい仕草が、俺の胸奥を軋ませていたーー。
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