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料理イヴェント
料理イヴェント
えみは、思った以上に危なげで頼りなかった。
のんびりというか、とろいというのか。
凄くほっとけない。
砂浜で、カップルだけで料理をすることになったのだが、本当危なっかしい。
砂に足を取られて、えみは何度も転びそうになった。
アメリカで住んでいる母親を、思い出さずにはいられない。
ついつい手を引っ張ったり、抱きよせてしまいたくなる。
「私はどうしても抜けているらしくって。料理もうまくなくて」
トレーナーであるレスキーの説明をきいたあとのこと、えみは申し訳なさそうに言ってきた。
料理をすることは、事前に知らされてはいない。
バスのハプニングよりもずっとえみの顔色が悪い理由、素直に言われてみてなぜだかわかった。
「料理は嫌い?」
「嫌いではないです。母が家にいないので、ほとんど家政婦さんがします。料理は家庭科で習うくらいなのです」
「ならば、俺が教えてやるよ」
正直に隠さず言ったえみに、俺は好感が持てていた。
「料理は得意なのですか?」
えみの瞳が、キラーンと瞬く。
「得意ってほどじゃない。学生の頃、キャンプとか好きだった。あと一人暮らしの経験もあるし」
「ならば、ぜひぜひ教えてください」
あまりにも嬉しそうな笑顔に、俺は思わずつられて笑ってしまった。
事前に貰ったテキストを見ながら、俺とえみは課題の料理を作りはじめる。
えみは、いい助手とはいえずとろとろしていて危なっかしい。
それなのに、せっかちな俺なのに気にならない。
のんびりと手取り足取り教えることが出来た。
どうしてえみは、イライラしないのだろう?
素直で返事がいいから?
目がキラキラしていて、こっちまで楽しくなってしまうせいだからなのかもしれない。
考えていた以上に、料理は難しくはなかった。
簡単なチキンのソテーと、ポトフ。
あとコーンスローが、時間内に出来上がった。
だが、久しぶりに料理をしたせいかもしれない。
味付けを間違えたのか?
ポトフに何かが足りなく、お互い首を傾げている。
たかが料理なのに。
一体何がいけないのだろうか?
時間をあまらせるくらい、工程は見事に終了したのに、考えても考えても浮かばない。
「まあ、いっか。こんなもので」
俺は、お遊びだしと諦めることにした。
「で、でも。せっかくだから、もったいないですし」
えみは、まだ納得いかないのか瞳を曇らせている。
思った以上に、えみはこだわりが強いのかもしれない。
大人しい雰囲気のくせに、面白すぎる。
俺としては、手取り足取り教えていたので、妙な密着感の方が一番気にはなっている。
料理に集中しようと、高ぶる気持ちを逸らせようとしたけど。
えみに興味がある以上、 なかなか難しいものがあった。
基本的に女性は、俺は二十代前半で面倒になった。
仕事に夢中だったし、擦り寄って来ても見なかったことにしていた。
それなのに、どうして年下の幼げな子に興味を持ってしまうのだろうか?
俺にとってえみは、とても不可思議な存在だったーー。
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