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予定外の休暇
予定外の休暇
久しぶりの休暇だった。
二十代の頃は、早く独立したく忙しない毎日だった。
ちょうど三十歳になり念願だった独立を果たし、今も昔も変わらないところはある。
仕事ばかりだと潤いがなさすぎると思った俺は、友人たちとのんびり飲み明かしたり、ゆっくりと海辺へ散歩にでもと思っていたのに。
せっかくの一週間の休みなのに。
父に頼まれ、大学の教授の顔を見に来たのが間違いだった。
先日、仕事ばかりの俺にそろそろと見合いの席が設けられてしまった。
まさかその見合い相手の女性が、恩師と顔見知りだなんて。
父は、乗り気のようだが俺は好みじゃない。
確かに、モデル体型の艶ある美人。
だが、高飛車で気位の高いキャリアウーマン。
仕事ばかりの俺と、お似合いだと父は言っていたが。
俺は、あの気の強そうな眼差しが好きになれなかった。
だからこそ、俺は断ろうとしたのにーー。
大学にある教授の部屋は、広かった。
応接室と書斎、二部屋ある。
俺は、高級感溢れる応接室で席を外している教授を待っていた。
外へ続くドアの向こうで、話し声がきこえるが、きき取れない。
かすかにきき覚えのある女性の声がする。
昨日の見合い相手だろうか?
似ているような違うような?
多分見合い相手なのだろう。
俺が模索していたその時、ドアが開いた。
「祥君、この子なのだが」
ノックもせずに入ってきた、相変わらず横暴な初老の教授。
彼は、珍しく渋い顔で頭を掻いている。
黒革張りのソファで寛いでいる俺のもとへ、一人の少女を連れてきた。
腰まで長い漆黒の髪に、肌色が透けるように白い。
人形のように、端正な顔立ち。
Gパンに、オレンジ色の無地のTシャツと、飾りっ気がない。
それでも昨日の見合いの相手と、多少なりに似ているような気はする。
だが化粧していないせいか、あまりにも雰囲気が違いすぎる。
あの女性は、今時のメイクがばっちり施されていて、ショートカット。
自信ありげで、勝気な雰囲気があった。
目の前の少女は、はるかに幼く見える。
その上大きな瞳は、おっとりとした感じで少し垂れている。
「天原しえ君の妹で、えみ君だ」
「妹?」
俺は、切れ長の瞳を興味深げに光らせる。
「そう。えみ君、彼が白石祥君だ」
「はじめまして」
えみと名前を教えてくれた彼女は、見た目の年相応とは思えないほどの物腰で頭を垂れた。
昨日の姉のほうも見事な所作だった。
それでも彼女のほうが、どういうわけか優雅に見え、好感が持てた。
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