中州

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中州

飛騨川にグランドキャニオンに似ているという場所がある。 その一番下流に中州がある。 穏やかな日常では、流れが分からない緑深い水が、 川底の砂を巻き上げながら流れている。 この中州は、豪雨に見舞われると消えてしまう。 下流には、モンサンミッシェルにも似た伝説を持つ寺もある。 これは、地元民だけが知る話である。 上流で流された溺死死体は、 この中州付近の深みに沈み込むと浮かび上がる事が無い。 国道から車の流れが消える丑三つ時、 この中州の上に青い炎が見える。 ふわりふらり…と、飛ぶ姿を見たものは (蛍が飛んでる) と誤解するが、蛍はもっと上流に行かないと見る事は出来ない。 そこに立つのは、黒髪が足元にまで伸びている女性で、 中州の中央に立ち、天狗が住むという山に向かって手を振っている。 ただ手を振ってから、大きく腕を広げ空を八回ほど舞ってから 国道に降り立ち “酒”の香りがする車の前に立ち車を止める。 ドライバーは、急ブレーキをかける。 「何しとんじゃっ!轢き殺されたいかっ!」 怒鳴るドライバーを外に誘き出し 「申し訳ありません。実は川の傍に落としものを…」 と話しかける。 ドライバーは、路肩に車を止め様子を見に出る。 相手はぞっとする程の美人だ。 下心を持ちながら、 美人と共に川の様子を見にガードレール付近に近づく。 そして、そのまま女に抱きつかれ 共に飛騨川の翠の川底へ沈んでいき 二度と外の空気を吸う事は、出来ないのだ。 川底には、幾つもの小さな水晶が沈んでいると言われている。
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