炎上

1/1
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

炎上

祖父の家には、 数えきれないほどのマッチ棒で 作られた五重塔がある。 硝子の箱に仕舞われていて 絹をさらに薄くしたような布が “雲”を表すように掛けられている。 五重塔の足元には、 細かな白い貝を砕いた砂が敷かれ 背景には、山の写真が貼られている。 子供の頃から、 その光景を眺めるのが好きだった。 特に、深夜トイレに起きた時眺めると 仕掛けは分からぬが その五重塔は、めらめらと赤い炎をあげて 燃えているのだ。 最初に見た時は、火事だと驚いて 両親を起こそうとしたが、 何故だか誰の身体を揺さぶっても起きてはくれない。 慌ててガラスケースの前に戻ると 無残な姿で五重塔は、焼け落ちて炭と化している。 ただ、火は消えているので安心し床に戻った。 祖父の家に泊まる度に、 深夜目覚めると、五重塔は炎上しているのだが 私以外は、その燃える姿を見てはいないのだ。 そして祖父が亡くなり、 家を解体しようとする数日前 祖父の家は、原因不明の火災により全焼した。 私は、秘かに火災の原因は、五重塔だと思っている。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!