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炎上
祖父の家には、
数えきれないほどのマッチ棒で
作られた五重塔がある。
硝子の箱に仕舞われていて
絹をさらに薄くしたような布が
“雲”を表すように掛けられている。
五重塔の足元には、
細かな白い貝を砕いた砂が敷かれ
背景には、山の写真が貼られている。
子供の頃から、
その光景を眺めるのが好きだった。
特に、深夜トイレに起きた時眺めると
仕掛けは分からぬが
その五重塔は、めらめらと赤い炎をあげて
燃えているのだ。
最初に見た時は、火事だと驚いて
両親を起こそうとしたが、
何故だか誰の身体を揺さぶっても起きてはくれない。
慌ててガラスケースの前に戻ると
無残な姿で五重塔は、焼け落ちて炭と化している。
ただ、火は消えているので安心し床に戻った。
祖父の家に泊まる度に、
深夜目覚めると、五重塔は炎上しているのだが
私以外は、その燃える姿を見てはいないのだ。
そして祖父が亡くなり、
家を解体しようとする数日前
祖父の家は、原因不明の火災により全焼した。
私は、秘かに火災の原因は、五重塔だと思っている。
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