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体罰1
これを体罰と言わず何をそう言うのか。長さ1メートル、直径5センチはある錆びた鉄棒で太腿を思い切り殴られることが彼の日常だった。
その儀式は正座させられることから始まる。
蔵人慈恩は今日も何かを忘れた。
宿題の時もある、保護者から担任宛の手紙かも知れない。体操服、給食の割烹着の場合もある。
何故、彼が忘れてしまうのかは自分自身も分からない。朝、学校に来ると結果として忘れているのだ。
その度に社会科担任の知念満は黒板上から鉄棒を掴み、若干、微笑み、恍惚としながら慈恩を殴る事を常としていた。
今日も大事な地理の白地図の宿題を忘れてしまった。
知念にヤラレてしまう。彼は手加減しない。
『痛い!』と思うが刹那、鉄棒の儀式は終わってしまう。
一瞬だけ我慢すればよい。
そう考えられるようになったのは、殴られ始めて半年が過ぎた頃だった。
忘れる事に羞恥や悔恨はない。ただただ、諦観あるのみだった。
3時間目が地理だった。
「白地図を忘れたもの!居ないだろうな!」
授業の初めに確認をした。
「はい、忘れました。」
静かに慈恩が手を上げる。瞬間、知念の頬の肉が緩む。
「忘れた者、廊下に出ろ!」
彼は黒板上から鉄棒を引き抜いた。重低音の鈍い音がした。その音が他の生徒全員の顔を硬直させ、恐怖で鼓動が『ドキドキ』と鳴る。
慈恩は教室外の廊下に正座した。地面は冷たかった。
ふと、右側に人の気配を感じる。
彼が振り向くと学級委員長の新妻心華が恥ずかしそうに隣に座していた。
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