ドキドキ倶楽部

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深夜。歓楽の街は眠ることなく人を呑み続ける。熱田アツシは人の波に身体を泳がせながら、辺りに油断のない視線を走らせる。何でもいい。カネを生み出してくれそうなネタが欲しい。ネタを探す。見つからない。いつものことだ。 熱田アツシは、先代の組長が食道癌でくたばって以来、運とツキとカネに見放されている。跡目を継いだのが、よりにもよって熱田よりふた回りも年下の高本。それが熱田の運の尽きであった。高本は年齢の近い者ばかりを重用し、昭和世代をことごとく遠ざけた。バブルど真ん中世代の熱田も例外ではない。儲け話からはとことん遠ざけられている。お陰で熱田は毎月の上納金にも事欠く有り様で、まさに血を吐くような思いを強いられている。 「熱田さん、どうもご苦労様です」 ピンク色の法被を着込んだ呼び込みたちが熱田の顔を見るなり頭を下げるが、その仮面の下には含み笑いが隠されている。それが分かっているだけに熱田の胸には切なさと侘しさがたまらず込み上げる。 「どうだい、景気のほうは」 素通りするのも味気なかろうと思い、熱田は取り敢えず挨拶程度の言葉をかけてみる。挨拶言葉はいつも同じだ。景気か天気。それが無難だから。間違っても繁華街の路上でヤバい話を振ったりはしない。 「みんなかたいすっねえ、財布の紐が」 「まあ、頑張ってくれや」 歩き出した熱田の背後から、呼び込み同士の圧し殺した声が聞こえる。 ――熱田さん、自動車税払えなくてベンツ手放したらしいよ。 ――ほんとかよ。儲からないならヤクザやってる意味ないよな。 熱田はさりげなく振り向いてみた。ピンク色の法被のふたりが明後日の方角を向いて口笛を吹きはじめた。熱田はアスファルトに空唾を吐いた。どいつもこいつも馬鹿にしてやがる。昔はこうじゃなかった。昭和の頃に帰りたい。 カネを生み出してくれそうな玉手箱がひとつも見つからぬまま、いつしか熱田は歓楽街の外れに迷いこんでしまっていた。
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