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しばらくして落ち着くと、ぼろぼろの姿のままリビングへと向かう。
部屋の隅に置かれたウサギ小屋の中を覗き込むと、ピーターが俺に気づき近づいて来た。
いつものように後ろ足を強く打ち付けるような行動はしないのは、餌を与えなすぎて弱り、怒る気力も無いのだろう。
「ごめんな、構ってやれなくて」
ピーターにそういうと、ボトルを洗って水を入れ、餌箱の中に大量の餌を用意する。
するとピーターは最初こそ大人しく食べていたが、徐々に体力が回復すると、開けっぱなしにしていた小屋から飛び出し俺の元へと走り寄って来た。
そして、今まで放置していた恨みとばかりに俺の足に噛み付くと、そそくさと走り去る。
「いってぇな、コラ!」
ピーターにそう怒鳴ると、ピーターは足を止め、こちらを向くと後ろ足を強く地面に打ち付ける。
そんないつものピーターに、心が温かくなっていくのがわかる。
全くウサギという生き物は、表情が変わらない分全身を使って自己主張してくるから飽きないな。
***
風呂に入り、食事を済ませ、部屋を片付けると、ようやく自分自身に人間らしさが戻って来た事を理解する。
人と言うのは本当に残酷だ。
あそこ迄絶望していた感情が今はそれ程強く感じない。
小説が、絶望を食べてしまったのだろうか。
いや、多分この感情を自分の中から小説の世界に移動させただけにすぎないのだろう。
「成る程、自分の感情の保存場所が小説と言う事か」
自分の中で結論を付けてしまうと、意外とスッキリするものだ。
小説は俺の感情の保存場所。
そして今回の小説には、そんな妻への深い想いが詰まっていた。
だがそれを理解すると同時に、今度は別の不安が押し寄せて来る。
こんな大切な存在を1つの場所に保管してデータが消えたらどうする。
一度失った大切な存在が又消えれば、今度こそ俺は自らの命すら断ち切るだろう。
どこかにこの作品を記録してもらえる場所はないものか。
そう思いネットを開くと、そこでとある小説の大会が目に止まった。
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