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気づけばいつの間にやら朝になっていた。
身体を起こすと節々が悲鳴をあげ、関節から音が鳴る。
どうやら俺は、あの後床で眠ってしまったようだ。
雷雨の続く俺の心情とは裏腹に、雲ひとつない晴天が窓から俺の目を突き刺す。
今日も世の中は当たり前のように周り、こんな俺の事を気に留める人など殆どいないだろう。
あたりを見渡すと、荷物整理をしていた途中という事もあり、妻の遺品で溢れ返っていた。
だが、それらを見ても昨日ほどの胸の痛みは感じない。
連続で訪れた苦痛に、遂に俺の感覚が麻痺を起こしたのだろう。
それはそれで有り難いと思い立ち上がると、何処からか何やら物音がする事に気づく。
見に行くと、部屋の隅に置かれていたウサギ小屋の中で、ピーターが空になった餌箱をひっくり返し、コチラに気づくと後ろ足を床に強く叩きつけて威嚇してきた。
あぁ、忘れていた。
俺たちはウサギを飼っていたのだ。
大きな袋からペレットを取り出し、ひっくり返された餌箱を戻した後、ペレットを注ぎ込む。
するとピーターは待っていたとばかりに、勢いよくその餌にがっついた。
「お前は、何もわかってないんだな」
あまりにいつも通りなピーターを見て、そう問いかけるが、ピーターは餌に必死になりコチラを見ようともしない。
そういやこのウサギも、妻との思い出のひとつだった。
そこから脳裏に過ぎる狂気じみた行動に、徐々に自分が壊れ始めている事に気づく。
マズイ、コレはあまりに危険すぎる。
我にかえり、慌てて何処かで発散する物がないものかとあたりを見渡すと、床に転がる1本のペンが目に止まった。
そうだ、これ迄の心情を小説に書き、そこに思いを閉じ込めてしまおう。
そう思った俺は、急いで作業場に向かい、小説を書き始めた。
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