第1話 幸福から不幸へ

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コレまで起きた出来事を全て文字にぶつけるだけの簡単な作業。 それは思いの外順調に進み、いつの間にか新たな物語と主人公がそこにいた。 この主人公は俺の生き写しの様な存在だが、俺ではない。 そしてその空間は、理想郷であり、無法地帯であり、ありとあらゆるものが生み出す事が可能な世界。 「死ね、死ね‼︎」 自分の中に溢れ出る負の感情が言葉になり、文字に落とされる。 爽快だった。 コレまで何故忘れていたかと思うほどに、小説を書く意欲が湧き上がり、俺を机の上に縛り付ける。 *** どれぐらい寝てないのか。 水を飲んだのはいつだったか。 食事を摂ったのはいつだったか。 正直覚えてない。 「おわ……った」 ただ理解出来たのは、コレまで感じた事のない脱力感と、それに辛うじて吸い付く達成感だった。 妻と子の死に絶望し、全ての活力を奪われたと思った俺だったが、この小説に対する想いだけは変わらない。 それが本当に居心地が良く、床に寝転がるとコレまで忘れていた空腹が激しく押し寄せて来た。 「腹減ったな……」 そんな事を呟くと、突如涙が溢れ出す。 空腹が俺に教えてくれる。 喉の渇きが俺に教えてくれる。 生きているんだと。 そうだ、俺は生きているのだ。 そう理解すると、突如として何故だか笑えて来た。 生きているのが嬉しいのだろうか。 分からない。 だって涙は止まらないのだから。 泣きながらに笑っている。 俺はどうしてしまったのだろうか。 そんな奇妙な状況にすら、また笑えて来た。
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