3人が本棚に入れています
本棚に追加
コレまで起きた出来事を全て文字にぶつけるだけの簡単な作業。
それは思いの外順調に進み、いつの間にか新たな物語と主人公がそこにいた。
この主人公は俺の生き写しの様な存在だが、俺ではない。
そしてその空間は、理想郷であり、無法地帯であり、ありとあらゆるものが生み出す事が可能な世界。
「死ね、死ね‼︎」
自分の中に溢れ出る負の感情が言葉になり、文字に落とされる。
爽快だった。
コレまで何故忘れていたかと思うほどに、小説を書く意欲が湧き上がり、俺を机の上に縛り付ける。
***
どれぐらい寝てないのか。
水を飲んだのはいつだったか。
食事を摂ったのはいつだったか。
正直覚えてない。
「おわ……った」
ただ理解出来たのは、コレまで感じた事のない脱力感と、それに辛うじて吸い付く達成感だった。
妻と子の死に絶望し、全ての活力を奪われたと思った俺だったが、この小説に対する想いだけは変わらない。
それが本当に居心地が良く、床に寝転がるとコレまで忘れていた空腹が激しく押し寄せて来た。
「腹減ったな……」
そんな事を呟くと、突如涙が溢れ出す。
空腹が俺に教えてくれる。
喉の渇きが俺に教えてくれる。
生きているんだと。
そうだ、俺は生きているのだ。
そう理解すると、突如として何故だか笑えて来た。
生きているのが嬉しいのだろうか。
分からない。
だって涙は止まらないのだから。
泣きながらに笑っている。
俺はどうしてしまったのだろうか。
そんな奇妙な状況にすら、また笑えて来た。
最初のコメントを投稿しよう!