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プロローグ
一体どれだけの時間を、俺はここで過ごして来たのだろうか。
狭く薄暗いワンルーム。
ここに住み始めて一度もカーテンを開けた事がない為か、室内に匂いがこもり、食べかけのカップラーメンの周囲をコバエが忙しなく飛び回る。
端にある布団は黄ばみ、不自然なほど重く、床には自身が書いた小説が所狭しと埋め尽くされていた。
家賃3万円の格安物件の為か、壁は薄く、毎夜隣からは耳障りなメスとオスの発情した声が聞こえる。
正直不快だが、残念ながら苦情を言う度胸は俺にはなかった。
何故自分がこんな生活をしているのかというと、理由は至極簡単な事で、小説家と言えば、狭い部屋を借りて1人黙々と書くものだと思ったからだ。
小説の中でも、漫画でも、映画でも、作家は皆同じ様な場所で作品を書いている為常識なんだと思う。
だが、いざこんな生活をしてみると、自分の無能さに嫌というほど気づかされた。
風呂に入ったのは何日前だろうか、洗濯したのは何週間前だろうか、部屋を掃除したのは何年前だろうか……徐々に不潔になる自分に、自分でも嫌気が差す。
夜中に気晴らしで散歩に出かければ、たまに見かける通行人に嫌な顔をされ、最悪な時は不良に絡まれ、殴られ、金をむしり取られた事もあった。
俺は不幸な人間だったのだ。
ボロボロの姿で帰り着くと、先ほどの通行人や不良を思い出して、欲望のまま小説に書き殴る。
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