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父親が捕まり、母親も親権について言ってこない上に親戚がいなかった伊藤は、高校の寮で生活をしていて、卒業までは父親の貯金を使うつもりらしい。大学は奨学金で入って寮で生活するんだと。ちなみに、父親に脅されなくなった伊藤はすごく明るくなったし、前よりも勉強が楽しいし、いい成績も取れているらしい。
あの事件の後、おれはちゃんと伊藤を家族に紹介して、家に呼んで、伊藤の話をたくさんした。姉ちゃんは伊藤のことをめちゃくちゃ気に入ったみたいで、いつも家に帰る度に「伊藤くんはいつ来るの?」って聞いてくる。伊藤も母さんと姉ちゃんのことをよく思ってくれてるみたいで、この前始めたバイトで稼いだお金で、二人に美味しいチョコとかあげてた。
伊藤とファーストフード店の窓から暗くなった外を見る。伊藤は「そろそろ寮に行くよ」と先に帰ろうとした。門限とか、風呂の時間が迫っているらしい。でもあの父親よりは自由な時間が多いから、伊藤は全然気にしてないっぽい。おれは遊ぶ時間がなくて嫌だけど。
「気をつけて帰れよ…じゃあね」
思わず「気持ちが沈んでます」と言わんばかりの声になる。仲良くなってから一年がたった伊藤は、おれのその声を聞いて「やめてよそれ〜!帰れないじゃん!」と言った。そう言いながらも帰っちゃうのを知ってる。何度も「母さんに、家に伊藤が泊まっていいか聞いてみるから」
って言っても、おれの扱いに慣れた伊藤は「はいはい、また明日ね」とだけ言って帰ってしまう。
少し残ったポテトフライを食べながら、カバンを持った伊藤に手を振った。ため息をつきながらポテトをゆっくり食べ、冬の夜空を窓越しにぼんやり見た。前まではおれの意思を尊重しすぎてたから一緒にいてくれたんだろうけど…そんな伊藤が寂しいけど、こんなに明るくて自分をしっかり持てるように変わった伊藤に対してそんなこと言えない。
食べ終わったらすぐに帰ろうとすると、伊藤がバタバタとおれの座る席に戻ってきてドスっと座った。
「…ああ、もう、今日は寮に行かない!」
呆気に足られたおれが「何で」と聞くと、伊藤はにっこりと笑いながら
「僕が一緒にいたいから!」
と言っておれのコーラを飲んだ。おれは「へえ」とだけいうと、少しにやつきながらポテトフライの袋の端に集まった、小さなポテトを口に流し込んだ。
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