私の妹?

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私の妹?

 休日。  ゲームをする塊と化した妹を居間に移動させ姉妹部屋の掃除をする。  こまめに掃除をしないと気が済まない藍は自分のスペースのついでに妹のスペースも掃除している。  ほっとくと妹の机は埃が数センチ積もり、同じ部屋で過ごす自分にも健康被害が及びそうだからだ。 「ん?」  紫のスペースを掃除していると、開きっぱなしだった紫の机の隙間から丸められた紙が床に落ちた。  コロコロ、と転がる紙屑。  拾い上げると触り心地はザラザラしていて画用紙が丸められたものだと気づく。 「なにこれ」  紙屑とはいえ紫側にあったものなの。明らかなゴミでない限り捨てることはできない。  藍は丸まった紙を広げた。  それは一枚の絵だった。  だいぶぐしゃぐしゃになっている紙には綺麗な風景画が描かれていた。 「誰の絵……?」  絵の描かれた面の裏を見ると、そこには文字が書いてあった。  黒いマジックで太く、まるで怒りを込めたような勢いのある字はこう書かれていた。 『○月×日。お姉ちゃんが私の絵にポテチをこぼした。自信作の絵に油がついた。ひどい! こんな絵もういらん』 「お姉ちゃん?」  この絵は紫が描いたってこと? 「でも紫は絵が苦手だったはず……」  以前藍が受賞した絵画コンクールの表彰状を見て紫は『いいなぁ。私めっちゃ絵下手だもん』と自慢のように歪むへのへのもへじを描いてみせた。  それに、今まで紫が絵を描いている姿なんて見たことがない。 「それにこの絵、なんだか」  私の受賞した絵のタッチに似てる?  その時、突然脳裏で母のある言葉が聞こえてきた。 『()はスナック菓子が大嫌いだもんね』 『反対に()はスナック菓子、とくにポテチが大好きだからね。だから買ってこないわけにはいかないの。時々どっちに買ってきたか忘れちゃうけど』 『でも()が絵を描いてる姿を見てすぐ思いだすわ。あ、この子にスナック菓子は厳禁だった、って』  え……? 「まって、“逆”だよ。紫はスナック菓子大好きだよ。毎日ポテチ食べてるじゃん」  母の言葉はおかしい。  おかえりー、と学校から帰ってくる私を迎える紫は毎日ポテチをつまんでいた。  この前だってわけのわからないポテチ用箸を買ってきて筋金入りっぷりを披露したばかりだ。  紫がスナック菓子を嫌いなんて聞いたことない。 「それに、スナック菓子が大嫌いなのは私の方だよ」  そうだよ。  すごく苦手だった。  だってスナック菓子の油が画用紙につくから。  せっかく描いた絵が汚れちゃうから。  ちょっと待って。 「私は誰の記憶を思いだしてるの?」  絵を描いたことのない紫の絵が出てきて。  母の言う記憶では紫はスナック菓子が大嫌いで、反対に私が大好きで。  でも私は描いた絵が汚れるからスナック菓子が嫌いだったはずだ。  ヤバイ。  混乱してきた。  私は誰を思いだしてる?  さっきから浮かぶこの記憶は誰のもの?  あの絵を描いたのは本当に紫?  紫っていったい誰のこと?  私の妹って誰?
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