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藍は紫として次の日から普通に学校に通った。
藍は紫に人生を譲ったわけではない。
自分も紫としての人生を謳歌してやろうと思っていた。
不登校だった紫のいきなりの再登校に戸惑う周囲の反応もあった。だが、藍は持ち前の明るく気さくな性格を生かしすぐクラスに溶け込んだ。
妹も自分もうまくやっていた。
休み時間、隣の教室を覗くと友達に囲まれ楽しそうに絵を描いて笑う紫の姿を見つけて嬉しかった。
でも、先にうまくやっていけなくなったのは紫になった藍だった。
妹の紫の名前で自分を呼ばれる度、藍はもう藍ではなく紫になった事実を感じた。
紫の姉として生きる藍の人生はこの世から消えてなくなった。
「今の私は何者なんだろう……」
時々自分が不確かな何かになってしまった事実に得体の知れない不安を抱いた。
でも、自分だけが不安で苦しむわけにはいかない。
それは妹も同じだから。
ただ事実を知らないだけで。
紫も藍と同じ境遇を背負っている。背負わせたのは姉の自分だ。
「もしかしたら私はとんでもない過ちを犯したのかもしれない」
私も妹も誰かの世界を生きる曖昧な存在になってしまった。
紫の絵の才能を外の世界に広めたかった。紫の才能を認めてほしかった。
自分の立場を授ければ紫は皆の輪の中で笑っていられると思った。それだけだった。
でも違った。
藍は藍になった紫でなく、紫本人として輪の中で笑っていてほしかった。
偽りの立場、姉の代役。そんな風に生きていくのは紫の本当の幸せじゃない。
その事実を突きつけられ、藍は学校に行くのをやめた。
大好きなスナック菓子とゲームを片手に家で一日を過ごした。
それが仮初めの人生を生きていく妹への禊だと信じた。
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