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「うおっーす! 沙耶ねぇ!」
有楽町の改札口の向こうから、大袈裟に両手を振ってこちらにアピールしてきたのは、私の姉だ。
薄化粧のひっつめ髪で飾り気のないナチュラルなチュニック姿。女の子2児の母。姪っ子たちが母親の真似をするから、と、子どもが出来てからは妹の私のことを「沙耶ちゃん」ではなく「沙耶ねぇ」と呼ぶ。同じく医療関係者だけど、今は臨床を離れて地域医療に従事している。行政に居るから平日休みは取りにくいのを押して、私の為に時間を割いてくれる。
流石にあのテンションには付いていけなくて、小さくお手振りをして応じた。
「ごめんねぇ。夜勤明けでしょ? 昨夜忙しかったんじゃない? ダイジョブ? 少し眠れた? 何か食べてきた?」
慌ただしく改札をくぐって駆けつけた姉は、私より5㎝くらい背が低い。心配顔で覗き込むように私の顔色を窺う。
本当なら篤人にかけてもらいたかった言葉が、姉の口からポンポン飛び出す。張り詰めていた気持ちが一瞬緩んで、慌てて目の奥に力をこめた。
「私の変なお願いに付き合ってくれてありがとうねぇ。ユカリが『限定トミカを買ってこい』っていうもんだからさぁ」
「いいよー。『警察博物館』ってどんなもんか、私も興味あったし。その後、アンテナショップ巡りに付き合ってね」
「高知? 卵かけご飯専用のお醤油だっけ?」
「そうそう。美味しいんだよー」
私は姉に精一杯の笑顔を返した。
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