9人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「えー? 俺の飯は?」
ベッドの上で浅い眠りに揺蕩っていると、不機嫌丸出しの篤人の声が降ってきた。
「……パン、買ってあるし、……適当に食べてってよ」
目蓋を開けるのもめんどくさい。どうせ視界に入るのは口を尖らせてコチラを見下ろす「夫」の顔だ。
私が何時に帰ってきたと思ってるんだ? 勤務交代時間ギリギリに急患が入って深夜勤務者のヘルプに回ったから、家に帰りついた頃には東の空に黎明の兆しが見えていた。
「ったく、看護師の嫁は当たりだって言われたんだけどなぁ……。使えねー」
寝室の扉を閉める直前の、篤人の――多分独り言。
聞こえてるよ、ボケ。
私は布団を被って情けなくなる気持ちを抱きしめた。
なんで、こうなっちゃったんだろう。一緒になる前は、私の仕事にも理解のある優しい人だったのに。
台所から乱暴にガチャガチャと食器を出す音が聞こえてきて、ますます胸がギュッと苦しくなった。
9時近くになってから、ようよう布団から起き出した。途中で起こされたから、まだ頭にカスミが掛かったみたいにぼんやりする。
食欲ないな……。
ミルクたっぷり目のカフェオレでも淹れようかと流しの前に立ったら、朝食後の食器が水に浸されることもなくカピカピに乾燥しているのを見て溜息が出た。
いいや。帰ってから片づけよう。
取りあえず桶に水をはって食器を突っ込んだ。
待ち合わせは10時半。
3か月ぶりだ。
あっちも何かと忙しいから、平日に日程を合わせるのがなかなか難しい。いつもはちゃんと私の休みの日に合わせてくれるのだけれど、今日は夜勤明けになってしまった。疲れた顔を残してないかと鏡を見て、いつもより濃いめにファンデを盛った。
最初のコメントを投稿しよう!