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——ピッピッピッ……
規則正しい電子音と右手首の鈍痛で目を覚ます。目の前には白い天井。どうやらわたしはベッドに横たわっているらしい。消毒のようなツンとした匂い。ここは、病院?
「沙由里!」
右手首の痛みが強まると同時に、視界に飛び込んできたのは見知らぬ男性。なぜ、わたしの名前を知っているのだろう。男は必死の形相でわたしの肩に掴みかかるとぐらぐらと身体を揺さぶった。
「痛っ」
引き攣るような痛みを額に感じた。わたしの呻きが耳に入ったのか、男は揺さぶるのをやめた。かと思えば今度は強く抱きしめられた。
「沙由里、よかった。目を覚ましてくれて。きみが死んでしまったらどうしようって、僕、本当に……」
「藤澤さん。藤澤沙由里さん。目覚められたんですね。ご主人、申し訳ないですが、検査をするので一度沙由里さんを放していただけますか」
病室に駆け込んできた看護師の言葉に耳を疑った。わたしの名前は『北里沙由里』だ。それに、この知らない男が主人、つまり夫だと言うではないか。
「あの、失礼ですが、あなたは誰ですか」
男と看護師は怪訝な顔で見合わせた。数秒の沈黙の後、男はまた迫ってくる。
「何も憶えていないのか?」
わたしは彼の目を見つめながら、曖昧に頷いた。少なくともこの人のことは何も知らない。不意に心臓がドクドクと暴れるように高鳴るのを感じて、胸に手を当てる。
「ご主人、沙由里さんは今とても混乱されていると思います。今日のところはお引き取りいただいて……」
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