雨の記憶

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その日、酒を飲みながら黒崎は もっと早く誘いたかったと言った。 『この前の蕎麦屋でさ、楽しかったよ。 次は、一緒に酒飲みたいと思っててさ、 でも、なかなか電車で来れる日がなくて』 うまそうにビールを飲み干し、 年齢にそぐわない無邪気な笑顔で言った。 会社では見られない素の表情に、 キュンとなる。 「私も、もっとお話ししてみたかったので お誘い、嬉しかったです。お酒も好きだし」 その日も楽しい時間を過ごし、 黒崎は電車で帰っていった。 私のアパートの最寄り駅にしてくれた さりげない気遣いも嬉しかった。 それからも、何度か食事をしたり 車で送ってもらったり。 8月の彼の誕生日の翌日、 食事のあと、ホテルへ誘われた。 その頃には私の方も、 すっかりその気になっていた。 会う程に、彼に触れたい、触れられたいと 思うようになっていった。
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