雨の記憶

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窓ガラスに流れていく雨の粒を見ながら そんな回想にふけっていた。 まだ、暗くなりきっていない外を見ながら、 もっともっと遠い日の自分に思いを馳せる。 このぐらいの暗さの空と雨を見ると、 思い出す光景がある。 胸がきゅんとする光景。 中学生の私。お気に入りのワンピース。 コロンの匂い。真っ暗な部屋。雨の音。 それら全てが一気に思い出される。 中学2年生になった時、 初めて同じクラスになった浩二君。 よく話すようになり、 ふざけ合うようになり、 やがて好きになっていった。 口には出さなかったけど、 両思いだった私達。 遠足の帰りのバスで、 後ろの席に座っていた浩二君が 座席の隙間からそっと私に 小さな袋を差し出し、 途切れ途切れの癖のある言い方で、 ぼそっと言った。 『中井、これ。お土産。俺と色違い。』 中を開けると、遠足で行った先の遊園地の キャラクターのキーホルダーだった。 すごく、すごく嬉しかった。 梅雨に入った、ある日曜日。 彼の部屋に誘われた。 14歳の私は精一杯おしゃれをして行った。 白いロング丈のワンピースに、サンダル。 ファンシーショップで買った、安物の プラスチックの星形のイヤリング。 初めは彼の部屋で色々とおしゃべりしたり、 共通の好みのアーチストの音楽を聴いたり、 笑いながら賑やかに過ごしていた。 そう、確かあの日、サザンオールスターズの 『BAN BAN BAN』を聴いて、 歌い出しの英語の歌詞をどちらが完璧に 歌えるか、競い合ったっけ。 母親に呼ばれて、リビングのソファーで 彼と隣どうしに並んで座り、 出されたケーキを食べながら、 3人でしばし歓談をした。 とても話しやすい、彼のお母さん。 やがてお母さんは用事で出掛けてしまい、 広いリビングのソファーに2人、 並んだまま残された。会話が途切れる。 さっきまで晴れていたのに雨が降り始めた。 静かにシトシト降っている。 どんより曇っていて、部屋の中は暗い。 さっきまでの無邪気な空気が 明きらかに変わった。 彼もちょっと緊張しているのがわかる。 彼の部屋にいた時よりも、彼が近くにいる。 時折、ふわりと爽やかなコロンの匂いが してくる。 すごくドキドキしていた。 部屋の電気はついていない。 つけるタイミングを逃したまま 時が過ぎていた。 シーンとした部屋。 時計の音だけがカチカチと響いていた。
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