雨の記憶

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私達はいつまでも黙っていた。 でも、お互いがお互いのことを すごく意識しているのがわかる。 彼は真顔でまっすぐ前を見つめていた。 私は俯き、膝にのせた手を見ていた。 聞こえそうな程、心臓がどきどきしている。 やがて、雨が強くなり、 さらに暗くなった部屋に ザーーーッという雨音が広がる。 白っぽく煙っている外の方が 明るく感じた。 目だけを動かして浩二君を盗み見ると、 喉仏に一筋の汗が流れていた。 その姿に、急に彼に男を感じ ドキンと胸が波打つ。 突然、時計が ボーンボーンと5回鳴った。 「私、もう帰らないと…」 『そっか。』 私は彼の前を横切り、玄関へと歩いた。 彼も後ろからついてくる。 背中が熱い。 『それじゃ。またな。気を付けて。』 「うん、ありがとう。お邪魔しました。 また学校でね。」 私達は距離が縮まること無いまま、 バイバイをした。 帰り道、雨の匂いに混じって、 ほんの一瞬だけ、自分の体から 彼のコロンの香りがした。 それだけで幸せな気分だった。
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