雨の記憶

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『今日も真由んちでいいだろ?』 車を走らせてすぐに黒崎が こちらも見ずに聞いてきた。 運転中だからというわけじゃない。 最初の頃は、発進する前や信号待ちの時に きちんと私の目を見て話してくれていた。 (潮時かな……) 私は心の中で呟く。 寂しさと同時に、ちょっと安堵する。 元々、長く続けられる関係ではないのだ。 入社当時からずっと憧れていた黒崎課長に 仕事帰りに食事に誘われ、それからは 何度か食事に行き、気付けば 誘われるまま、大人の関係になっていた。 社内で人気の上司との秘められた関係に 有頂天になっていたのだ。 私より一回り年上の黒崎は、 再来月で35歳になる。 私達の関係は、彼が35歳になる日で 丸一年になる。 と言っても、 最初の頃こそ頻繁に会っていたけれど、 関係が出来てからは、 会うのは月に1、2回程度だったから、 そんなに濃厚な関係ではない。 「……別にいいですけど。」 ぜんぜん良くなんか無かった。 先月会った時は、いきなりホテルに入り、 自分本意なやり方で抱かれたあと、 ルームサービスのパサパサしたパスタが 2人のディナーだった。 馬鹿にしてる。
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