駆け落ち実行

1/1
前へ
/10ページ
次へ

駆け落ち実行

 井原家のチビも、桃栗家の花子も夜になるとお部屋に上げてもらい、一晩を家族と共に過ごすことになっている。 勿論、その時だけは首輪からリールが外されるはずだ。 二人、いや二匹はこのチャンスを狙っていた。 「さぁ、チビ、お家に入ろうか。」 ユミはチビの首からリールを外すと玄関戸をいっぱい開けた。それはいつものようにチビに背を向けてである。 「チビちゃん、ハイどうぞ!」 でも、いつものようなチビの動く気配が無い。 「チビ! 早く入ってよ、今日はどうしたの?」 ユミは後ろを振り返った。だが時遅しユミの視界からは既にチビの姿は消えていた。 「ママ大変、チビが居なくなっちゃった!」 「そう言えば最近、こんなことが続いてるわね、でも暫くすると帰って来るみたいよ、だからユミちゃん、不用心だけど玄関の戸、少しだけ開けて置いてくれる。」  だが、これまでの予行演習とは違い、この夜のチビは帰ってこなかった。 その頃、奇しくも桃栗家でも同じことが起こっていた。 チビ達にとって、このできごとは珍しくも、不思議でもない、それはチビと花子の駆け落ちの実行日だったからだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加