突然の別れ(私)

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突然の別れ(私)

その日は天気の良い日でした。 私は庭で洗い終えた二人分の服を干していました。 ギリルのシャツはそろそろヘソが見え隠れし始めたので買い替えた方が良いかも知れない、なんて考えていた時、遥か東から常に届いていたあの方の力が、なんの前触れもなく途切れました。 ……あの方が……? そんな……。まさか……。 唯一、私よりも長く生きていた東大陸の魔王が……。 突然の喪失に体中の力が抜けるようで、私はその場に膝をついていました。 あの人は争いを好まない優しい方でした。 私のように死にたいと望む様子もなく、隠れ家に広い庭を構えてらして、花を愛でるのがお好きな方で……。 ただ静かに暮らしたいとおっしゃっていたのに……。 どうして、こんな事に……。 滲んでゆく視界で、悲しみが憎しみへと変わってゆきます。 いけません。 こんなところで暴走してしまっては、ギリルまで巻き込んでしまいます。 せっかくここまで強く健やかに育てたのに。 もう背丈も私の胸ほどまで伸びて、私を追い越す日も近いというのに……。 「せんせ!?」 ガランと何かが倒れる音と共に、向こうで木剣を振っていたギリルが駆け寄って来ました。 「どーした!? どっか痛いのか!?」 私を心配する、不安の色濃い声。 答えようと口を開けばそこから呪詛がこぼれてしまいそうで、私は小さく首を振るのが精一杯でした。 私の肩を支えようと伸ばされた小さな手が、私から染み出した闇に弾かれます。 「……っ!」 彼の属性と反するため激しい痛みを感じたはずなのに。ギリルは声を漏らすことなく、私から距離を取ることなく、私に慎重に声をかけてきました。 「せんせ……。俺、医者呼んで来てもいいか?」 ギリルの声は、私を失う事が怖くてたまらないという不安でいっぱいの声色から、私を気遣うようなものへと変わっていました。 その声になぜか安堵感を感じて、膨らみつつあった憎しみもどこか薄らぐようでした。 黙ったまま私が首を振ると、ギリルはまた静かに尋ねます。 「痛いとか、苦しいとか、そういうのじゃねーんだな?」 痛みも苦しみも感じてはいましたが、それは体ではなく心でした。 彼が心配しているのは、私の体の事なのでしょう。 顔を上げないまま私がコクコクと頷けば、張り詰めていたギリルの気配が緩むのを感じました。 「そか……。なら良かった……」 ギリルの小さな手がもう一度伸びてきて、胸元で固く握りしめていた私の手を握りました。 ……怖くないのでしょうか。 また弾かれたらと。また痛い目に遭うかも知れないと、予測できないほど馬鹿な子ではないはずなのに。 ギリルの手はまだ私の手より小さくて、彼はもう片方の手も合わせて、両手で私の左手を包むようにしました。 「俺が、守ってやるからな」 ぽつり。と落とされた言葉は信じられないものでした。 「俺、世界で一番強くなって、せんせーの事、絶対守ってやるからな」 私の手をじっと睨み付けるようにしながら、ギリルは覚悟の込められた声でそう誓いました。 私が息を吹きかけるだけで消えてしまいそうな儚い命が。 私を守ろうだなんて。 おかしいと思うのに、それでも嬉しく感じてしまうなんて。 本当に、おかしいですね……。 思わず小さく笑ってしまうと、緩んだ拍子にポロポロと涙が落ちました。 「……っ、笑うなよ」 ギリルは悔しそうに言いながらも、私を慰めようとしてくれているのか、小さな肩を貸してくれました。
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