直径約100cmの世界

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雨の時の、草や土の湿った匂いは、嫌いではない。少しひんやりとした風も嫌いではない。 傘をさして、意味もなく近所を散歩するのが、嫌いではない。 じめっとした空気は少し体を億劫にさせるけれど、それも特段嫌いな訳では無い。 傘にあたる雨の音は、自慢話をするあの人や、語気を強めて話す、あの人の声より、余程心地よい。 傘の中。 そこは、私にとって小さな世界で。 騒音から隔離された、直径おおよそ100cm前後の私の特別。 ポツポツと傘にあたる雨の音。 私はその音が嫌いではない。 雨音は私の叫びをかき消してくれる。 雨音は周りのやかましいとよく言われるけれど、私にとっては… 雨よ、どうかもう少しだけ降ってはくれないかしら。
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