疑惑のひとたち

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「おかえり」 帰ってきてすぐリビングのドアからお義父さんが顔を出して、アイスが溶けたようなふにゃとした笑顔で迎えてくれた。 「……いま」 怒られそうなちっさい声で返事をすると、俺の予想を裏切って、お義父さんはどこか嬉しそうな顔でこっちへ駆け寄ってくる。 「じゃーん!」 そうして、俺の前に何かを押し出してくる。視界が、白に埋め尽くされる。 「なに、これ。……まくら?」 「そう!まくら!安眠枕!」 お義父さんは飛び跳ねそうな感じてそう俺に返して、枕に顔をうずめた。まるで生まれたての赤ちゃんに頬ずりするみたいに。 「ふかふかなんだよぉ〜これ〜。ほらほら見て!押したら……ほら!こんなへこんで、戻ってくんの!!それにわたあめみたいにやわらかいんだよぉ〜!」 お義父さんは俺に対面販売してくるように暑苦しく枕の良さを伝えてくる。特に柔らかさについて。わたあめは言い過ぎだろう。わたあめみたいに柔らかかったら枕として成立しないし、もうそれは枕じゃない。 「三日前にテレビで見てさ、今日買ってきちゃった!」 おもちゃを買ってもらった子供みたいに無邪気にお義父さんがそう言って、「はいっ」と俺にその安眠枕を手渡してくる。 「……おれの?」 「うん!慧人の分」 お義父さんは当たり前のように言う。 これでぐっすり眠れるはずだよ、なんて言葉も添えて。 「………ありがと」 自分でも無愛想だと思った。 俺はお義父さんの目も見ず枕を受け取って、靴を脱ぎ散らかしたまま、リビングに足を踏み入れないで通り過ぎて階段を駆け上がった。 そのまま自分の部屋に向かう前に、駆け上がった所の二階の廊下でまた俺は足を止めた。そして、また紘斗の部屋を見る。 開いていたはずのドアが閉まっていた。おかげでドアに掛けられたあのネームプレートがよく見えた。 俺は、紘斗の部屋のドアに歩み寄って、そのネームプレートを裏返した。
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