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私の居場所はどんどんなくなって、ママとあの人の匂いばかりがこの部屋を満たしていく。
雨の音がする。
朝、目を覚ますと今日もまたバックグラウンドでいつものBGMが自動再生された。ザー、ザー、ザー、ザー、規則正しいノイズを垂れ流しながら気怠く起き上がりカーテンを覗くと、窓の外には高く澄み渡った青空に、刷毛でひとはきしたような雲がさらさらと流れていた。
ベロア生地の赤色のトレーナーを脱ぎ、リボンがなければまるで喪服みたいなセーラー服に着替える。洗面所に移動して髪を梳かし、洗顔、歯磨きをして、鏡の前でにこっと笑う。すると目の前の美少女は明るく健康的な笑顔を浮かべていて、私はそのことに毎度のことながらびっくりして、だけどその感情は鏡に映る私のどこにも現れていなくて呆然とする。
朝ご飯はなし。なんとなくいつもテレビを点けて、天気予報と占いを見てから学校へ行く。
テレビでは、今日は一日雨が降らないって言ってる。
『それでは今日も一日、元気に行ってらっしゃい!』
若い女子アナの爽やかな声に見送られ、行ってきます、声に乗せずに呟いて、テレビを消した。
毎日放たれることなく塵のように積もりに積もった言葉たちは、宙にもどこにも浮かばなくて、私の心のなか深くにだけ沈み込む。
裏地に黒いボアの付いたパーカーを羽織り、一人、静かに部屋を出ると、アパートの鍵をしめ学生鞄の奥深くにしまった。
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