勘違いの恋 思い込みの愛

帰宅すると真っ先に、夫の晴也(せいや)に相談した。

「家事との両立が出来るんならね」

晴也はそっけなく言った。
しかし晴也がそう言うであろうことは想定内だった。「じゃあ俺も家事を手伝うよ」のひとことが何故出ないのか、と梨花はいつもながらに思うのだった。
晴也の言いたいことはわかっていた。「わざわざパートに出なくてもいいだろう」ということだろう。実際、何不自由なく生活は出来ていた。

ライターの晴也と結婚して3年、初めのうちこそ「いつも一緒にいられる」と、在宅勤務が多い夫の仕事を喜ばしく思っていた梨花だが、1年が過ぎた頃には苦痛を感じるようになっていた。
仕事を辞めて専業主婦となり、家事も卒なくこなしていた梨花が、晴也から小言を言われるようなことはなかったのだが、常に監視されているようで、気が休まらなかった。
友人と時々ランチに行くが梨花の唯一の楽しみだった。
自宅にいるのが息苦しくなっていた梨花は、パートに出ようと考えていたところだったのだ。
今までは何でも晴也の言う通りにしてきたが、今回ばかりは梨花の意思は固く「じゃあやってみれば」と晴也がしぶしぶ承諾する形となった。
勿論、梨花は家事も完璧にやってのけるつもりでいた。