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「いらっしゃいませ~」
7時からの2時間は、サラリーマンや学生などで、一番込み合う時間帯だった。
ひっきりなしに客がレジに並び、梨花は手を休めることなく、レジ打ちと袋詰めに没頭する。
パン屋の販売スタッフにとって一番の難関は、全てのパンの名前と値段を覚えることだったが、この店の常連客だった梨花は、難なく突破した。そして人懐っこい性格であった為、客からすぐに顔を覚えてもらえ、あっという間に店に馴染んだ。
客が疎らになりほっとひと息ついた10時頃に、ある男性がやって来る。
「おはよう」
爽やかな笑顔で挨拶する彼に負けない笑顔で、梨花も元気に挨拶する。
「おはようございます!」
視線をすぐにトレーの中のパンに向け、素早くレジ打ちする。
彼はいつもパンを2つと、カフェオレを購入する。
「530円です」
彼が財布から小銭を取り出し釣り銭皿に置く。
「丁度お預かりします。ありがとうございました」
梨花が満面の笑みで挨拶すると、彼は笑顔で「行ってきます」と返事する。
会社員ではないのだろうか。スーツ姿ではなく、流行に合ったものをお洒落にアレンジして着こなしていた。アパレル店員もしくは美容師というような雰囲気を醸し出していた。
梨花は密かにこの時間を楽しみにしていた。
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