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「行ってくるね」
梨花が声を掛けると、パジャマ姿の晴也がコーヒーを啜りながら「うん」とひとこと。
テンションの低さは仕方がない。まだ朝の6時半なのだから。
のんびり自転車を走らせること15分――店に到着した。エプロンを着け、レジに立つ。
焼きたてパンの香りに包まれて、幸せな気持ちに浸っているうちに、客がどんどん増え始め、またレジ打ちと袋詰めに没頭の時間が始まる。そしてそれが落ち着く頃に、また彼がやってくる。
「おはよう」
「おはようございまーす!」
いつもと変わらず――いや、特別な笑顔で、接客する。
「540円です」
彼はポケットから1000円札を出し梨花に手渡した。
「1000円お預かりします。――460円のお返しです」
梨花が釣り銭皿に置く前に、彼が手を出した。急いでいるのだろうか。
梨花は彼の手の平に、そっと釣りをのせる。
彼の手が少し触れ、胸が高鳴った。
「行ってきます」
いつものように彼がにっこり微笑む。
「あ……ありがとうございました」
梨花は頬がみるみる紅潮するのを感じていた。
――気付かれたかも。
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