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「……そんな事があったんですか」
と亜希子は不思議そうにうなずいて写真を置いた。
大きなお腹を抱えて、身動きするのも大儀そうだ。
来月には亮介と亜希子に待望の第一子が産まれる。
百合は間もなく母親になる亜希子に伝えておきたい事があった。
「本当はね、佳子さんのメッセージはもう一通あったの」
とタンポポ茶を注ぎながら百合は言った。
「写真と地図とチケットの他にってことですか?」
「そう。実は私ね、佳子さんの宝箱が押し入れの天袋に隠されていたこと知っていたの」
百合は遠い日の記憶を浚うように優しい顔で笑っている。
亜希子は唖然と義母を見た。
「宝箱の上に帯封みたいに一枚、空色の細い綺麗な紙が巻いてあって、メッセージが書かれてた」
「なんて? 佳子さんはなんて書いてたんですか?」
亜希子は好奇心と少しの寒気を感じながら訊いた。
「亮介が私の幽霊に会ったと言ったらこの箱を開けてください、と。」
亮介が佳子の幽霊を見るようになった頃、百合のお腹には亮介の妹がいた。
継母子の間柄はまだ安定しておらず、亮介は新しい母に宿った妹の存在を多少の屈託をもって受け取っていたのかもしれない。
そんな日々の中での、あの遊園地を探す小さな旅は、亮介にとって新たな親友を得る旅となった。
「母の代わり」ではなく、頼れる年上の相談相手であり、冗談を言い合える仲間のような親友。
その関係は亮介に妹が生まれてからも変わる事はなかった。
「いつか行ってみたいな、E遊園地」
亜希子はお腹を撫でながら言った。
「そうね、きっと楽しいわ」
百合は心から頷いた。
まもなく梅雨が明けようとしていた。
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