姉が狐の嫁入り

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「透子さん申し訳ございません…!こちらとあちらの時間の経過が違う事をすっかり忘れておりました!」 「う、うそ!?」  ようやく姉の顔を見れた事に安堵するも、現実で起こっている事実を伝えると姉は少しパニックになった。  話を聞けば、こっちに来てまだ半日くらいしか経ってないらしい。その間もツリメさんが何度も何度も謝るので、逆に姉が宥め始める。 「何か大変な事になってるな」  俺の言葉の真意を理解したのか、姉の体が固まった。そしておずおずとツリメさんの方を見て、再び俺の顔に視線を戻す。 「ぜ、全部聞いたの?」 「まあ、一応」  姉の顔がほんのりと赤く染まる。それを見たツリメさんの頬も赤く染まる。何だこいつら。 「私は出て行きますので、どうぞお二人でお過ごし下さい」  ツリメさんの案内でどこかの部屋に通されると、俺達だけを残してすっと出て行ってしまった。姉を心配する視線を残して。 「すげーお屋敷。じいちゃんの家も中々でかかったけどボロかったもんな」 「…………」 「あの人みんなに慕われてるんだな。  ここまで歩いてくる時、すれ違う狐達みんな頭を下げてた」 「…………」 「まさかこんな事になるなんて思わなかったけど、ある意味玉の輿ってやつじゃん。これで透子も安泰」 「別に私結婚する訳じゃないから」  俺の言葉を遮る様に、ぴしゃりと言い放つ姉。 「ここに来たのも、彼がどうしてもって言うから。それだけだから」  まるで言い訳の様に連ねる姿は、初めて見た気がする。  はあ、と思わずため息をつくと、姉の体が震えた。 「なんで嫌なの」 「だって、住む世界が違いすぎる」 「違うでしょ。俺の事でしょ」 「………」  姉が俯いて黙る。 「俺ももう22だよ。  就職も決まったし、大学生になってからは自分の事は自分でしてる。  透子ももう30歳になるし、別に結婚してもおかしくない年齢だ。もう大丈夫だから。もう、大丈夫だからさ、お願いだから…」  今度は俺が下を向く。 「いい加減、自分の幸せを考えてくれよ」  懇願する様に呟いた。  本当は俺の恩返しはこれからするつもりだった。  でも、こうして姉を幸せにしてくれる人が現れたのだ。俺に出来る事は姉の背中を押してあげる事。  それが、一番の恩返しの様な気がしてきたのだ。 「ツリメさんの事、好きなんだろ?」 「え!?」 「見てたら分かるよ。 何年一緒にいると思ってんだよ」 「……っ!」  二人の間に何があったのかは聞きたくもないが、ツリメさん普通にかっこいいし、頼り甲斐のある男(狐)だもんな。 「好きなんだろ?」 「……うん」  顔を真っ赤にさせて、何故か涙目になって頷く姉。  その様子を気まずげに見ていた俺に気付き、姉が畳に突っ伏した。 「いや〜!弟とこんな話したくない〜!!」 「俺もだよ。勘弁してくれ」  天国の母さんも、どんな思いで見てるんだろうな。  それからややあって、二人の結婚式が執り行われた。  場所は勿論異界。俺はどんな格好していいのか分からなくてとりあえずスーツで参列した。  空は快晴なのに雨が降っている不思議な天気の中、宮司っぽい狐、新郎新婦、俺、そして色んな狐と並んで大通りを練り歩く。花嫁行列と言うらしい。  姉は白い着物を着てしずしずと歩いていた。  本当にあのよく喋ってよく笑う姉だろうかと思うくらい神秘的で、何より綺麗だった。  
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