14人が本棚に入れています
本棚に追加
裕之はおずおずと雑誌の切り抜きを差し出した。
切り抜きには、流行りのアイドルグループの中でも爽やかさで人気のイケメンが、ふわっとした髪型をして写っている。
「できますか?」
裕之はもじもじと尋ねる。心臓が破裂しそうだった。
「ああ、いま人気のアイドルだね。彼、カッコいいよね。できるよ。ストレートヘアだし、おにいさんがちょちょいとやってあげるよ」
女性客が帰ると、裕之と美容師のふたりきりだ。裕之はホッと胸を撫で下ろす。いろいろと頼みやすくなった。
「中学生?」
「はい」
「何年生?」
「一年です」
「髪型にこだわるといいことあるよ」
「ほんとですか?」
「僕の店でカットした子は、男子も女子もみんなモテるよ」
美容師の柔らかい声が裕之の鼓膜を震わせ、じわじわと脳内に沁みてくる。
裕之は学校で振舞う自分の姿を想像した。想像するうちになぜかアイドルグループのイケメンの姿になった自分が瞼の裏に映し出された。
その後も美容師は気さくに話しかけてきた。だけど裕之の耳には入らない。頭の中がふわふわして、胸がドキドキしていたから。上の空で聞いていた。
最初のコメントを投稿しよう!