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ある日の朝。出勤するために一階に下りたとき、大家のおばさんがエントランスホールで掃除をしているのに出会った。
僕はすぐに隣の部屋の住人について聞いてみた。
隣に住人? だれも入ってませんよ。
意外な答えに僕は返す言葉もなく、足早にその場を立ち去った。
もしかすると大家の嫌がらせかもしれない。そう思ったからだ。
最近、僕は同じマンションの一階に住む大家の車に石で傷をつけてやったことがある。理由は、僕が出した燃えるゴミの袋に空き缶が入っていたと言って、わざわざ中身を調べて部屋まで持ってきて注意してきたからだ。
その翌日、僕は報復措置として、大家が乗る高級車のボディに傷をつけた。
おそらく大家は僕を疑ったはずだ。証拠がないから言えないだけで。
それからしばらくしてエントランスホールをはじめ、周辺に防犯カメラが設置された。住人にとってはありがたい話だっただろう。すべて僕のお陰だ。感謝してくれとさえ思う。
きっと隣の部屋から聞こえる女の声は大家がラジカセでも置いてタイマーで流しているのだろう。そう思うとこの現象は説明がつく。報復措置に違いない。
相変わらず女の声は聞こえた。だけどもう僕は気にしない。大家からの嫌がらせにいちいち報復しても仕方がない。それに僕の部屋に入って確認する、なんて言いだしても面倒だ。耐えることにした。
ただ、どうしてもわからないことがあった。僕の体にできるミミズが這ったような赤い跡だ。すでに顔を除く全身に広がっていた。依然として解決しない悩みだった。
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