① タクシーの中

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 三年前、通信制で高校を出て、趣味でやっていたパソコンのプログラミングをそのまま仕事にして、父の会社に所属してプログラマーとして働いている。  そんな引きこもった俺の人生と正反対に生きてきたのが一歳年下の妹の玲香だ。  見た目は俺と似ていると言われることもあるが、玲香は可愛い。とにかく可愛い。  幼い頃から可愛いと評判で、性格も明るくて才能に溢れていて、誰からも愛される子だった。  おそらくそうだろうと言われていたが、玲香はアルファで、それは誰もが納得するくらいの判定だった。  とにかく活発な子で、枠に囚われたくないが口癖で、中学になると自分から志望して海外に留学。  優秀な成績を収めつつ、スポーツの大会に出たり、バンド活動に明け暮れたり、モデルや、芸術方面に名前を轟かせてみたりと何をやっても抜群の才能を見せた。  中学で日本を出てから、たまに顔を見せに帰ってくることはあるがほとんどを海外で暮らしている。学生をやりつつ、世界中を旅して写真を撮ってきた。今は自然保護の活動や、個展を開いたりなど、俺には想像もできないような世界を生きている。  俺にとっては自慢の妹であるのだが、自由すぎてまともに掴まらないレアな人物でもあった。  そんな折、今回の縁談の話が来たのは、白奥家にとってかなり衝撃だった。  家同士の結婚など時代錯誤だと、正式に文書にしたわけでもなく、とっくになくなったものだと思いこんでいたからだ。  しかし、これは暗闇に差し込んできた光でもあった。  父の会社は窮地に陥っていた。  主力商品だったものが、類似商品に取って代わられてしまい、しかも原材料に不備があり回収騒動と企業としてのマイナスイメージが付いてしまった。  慌てた父は、会社の土地を売却して、投資に回したが、それがことごとく失敗。  巨額の損失を負ってしまった。  そのタイミングで降って湧いたようなこの話、しかも結婚にあたって、多額の出資と、超好条件の業務提携を約束してもらえるという、父にとっても命綱が降ってきたような話だった。  こうなったらと、一縷の望みを託して、玲香となんとか連絡を取ろうとしたがなかなか掴まらない。  そんな時やっと、最近の私として、SNSにアフリカの奥地の部族と楽しそうに手を上げて踊っている写真が上げられたのを発見した。
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