3・崩壊の始まり

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3・崩壊の始まり

 私は目を開けると、石の椅子から立ち上がった。カルロを無視して、部屋の奥に向かう。  コツコツと革靴の足音をさせて、神殿を歩く。  私の向かう先には、深い闇が垂れ込めていた。  私はうつむいていた顔を上げた。  眼の前には、吸い込まれるような闇がある。  それでも私には、その暗黒の中に悪魔が潜んでいるのが分かった。  この世にレオナルドがもういないのなら、私には生きている意味がない。  世界が存在している意味が無い。  今こそ、私を──この悪魔を解放するときだ。  私と悪魔アザゼルこそが、世界を滅ぼしうるのだから。 「アザゼル……私の魂も肉体もあなたに捧げましょう。その代わり、私の願いを叶えて下さい」 「ちょ、ちょっとジュリアーノ!?」  カルロの制止を無視して、私は暗闇に向かって叫んだ。 「この世界の人間を滅ぼして、あとかたもなく消滅させて下さい!」  次の瞬間、神殿の中をうなるように黒い風が吹き抜けた。  強い風が、私の黒い神父服と、金の髪を揺らして通り過ぎてゆく。 「了解した。私の聖なる炎よ。その願いを叶えよう」  知らない男の低い声が聞こえた。ラテン語だ。  その声は、抑えきれない歓喜に満ちている。  神殿全体が、大きく揺れた。  大地を突き上げるような激しい地響きがする。 「うわっ! 地震っ!?」  カルロが立っていられず、うろたえて叫ぶ。  同時に周りが、眩しい閃光に包まれる。  私もカルロも見えない衝撃を受けて、思わず床に倒れた。
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