5・私を愛しているのなら、私をどうか憎んで

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5・私を愛しているのなら、私をどうか憎んで

 もっと私を激しく憎んで欲しい。  私は薄く笑っていた。 「もうすでにローマは吹き飛びました。世界の他の主要都市も、じきに滅びるでしょう。これからは悪魔のアザゼルの軍団が、この世を支配するのですから」 「ええっ!」  カルロが大きな緑の目を見開いて、私を見つめた。私は静かな笑みを浮かべて、カルロを見下ろしていた。   「カルロ、愛し合って、殺し合いましょう。あなたが私を憎んでくれることが、私はこんなにも嬉しい」 「ばか野郎! ふざけた事言ってんじゃねえ!」 カルロは私を睨みつけると、猛然と向かってきた。 「もう止めろ! こんなことしてちゃ駄目だ!」  カルロに飛び掛かかられて、前から襟首をつかまれる。少年にしては予想以上の強い力で、襟首を引っぱられた。そのまま、勢いよく地面に引き倒された。   「うわっ」  視界が一転したかと思ったら、私は地面に転がっていた。思わずうめく。 「世界を滅ぼすだって!? そんなことさせるか──っ!」  仰向けに倒れた私の上に、カルロが馬乗りになっている。  カルロは泣きそうになりながら、私の頬を一発だけ平手打ちをした。それから拳を握って、感情をぶつけるように、私の胸を何度も叩く。 「ばか、ばか! こんなこと今すぐ止めさせろ! 世界を元に戻すって、アザゼルってやつに言えよ!」  カルロの激しく燃えるような緑の瞳が、私を睨みつけていた。思わず身体の奥底がぞくりと欲情する。  私はこの瞳に惹かれた。  カルロの強い意思をあらわにする、この瞳に。 「嫌です……。それにもう、後戻りの道はありません」  私は無表情に答えたあと、カルロへにっこり微笑んだ。  優しい口調で、言い聞かせるように言う。 「カルロ、私の物になりなさい。私を憎みなさい。愛よりも深く、恋よりも激しく」  少年を犯してやろうかと思って、腕を伸ばした。  両手で、彼の頬を包む。そのまま口づけした。 「ん、んん……!」  息が苦しいのか、私の口づけを受けながら、カルロはもがいていた。  愛し合いたい。傷つけ合いたい。  カルロの無垢な魂を、無茶苦茶に壊してやりたい。  殺して、殺して、殺しまくって。  そうすればカルロも気が付くだろう。  憎しみ以上の愛なんてないのだと。
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