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ユイちゃんと僕
雨が降るとユイちゃんは、不思議なことを言う。
「今のは、ド。」
「今のは、シシシね。」
雨粒が傘に当たるたび。
水たまりに雨が落ちるたび。
窓に雨が打ちつけるたび。
「何の話?」
僕が尋ねると、
「雨を音にしてるの。」
と、ユイちゃんは笑いながら言った。
「ユイには絶対音感があるんだって、ピアノの先生が言ってたの。」
「ぜったいおんかん?」
その言葉の意味はわからなかったけれど、おまじないのようなそのフレーズが僕は好きだった。
ユイちゃんの家にはすごく大きなピアノが置いてあって、壁にはコンクールの賞状がたくさん飾られていた。
大きくなったらピアニストになりたいと、ユイちゃんは言っていた。
僕がユイちゃんの家に遊びに行くと、ユイちゃんはいつもピアノを弾いてくれた。
3歳から習っているというその腕前は、小学生の僕が聞いても上手だとわかるくらいだった。
そして雨が降ってくると、ユイちゃんはまた不思議な言葉を言いながらピアノを弾くのだ。
「雨の音だよ」とユイちゃんは言う。
曲になっていない音階の羅列は、他人からしたらただの雑音にすぎなかっただろう。
でも僕にとってそれはとても綺麗な羅列で、その瞬間にしか生まれない美しい調べだったんだ。
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