ユイちゃんと僕

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ユイちゃんはたまに、僕にピアノを教えてくれた。 「この2つの黒い鍵盤の左下にある白い鍵盤が、”ド”だよ。」 言われた場所を人差し指で押してみると、低くて重い音がした。 僕は楽譜を読めないしピアノなんて全く無縁だったけれど、ユイちゃんがずっと隣で教えてくれるから嬉しくて、どうにか『きらきら星』くらいは弾けるようになった。 人差し指で、だけど。 『きらきら星』が弾けた時にユイちゃんはすごく喜んでくれて、僕はその笑顔をまた見たくて、何回も何回も『きらきら星』を弾いていたっけ。 ユイちゃんが死んじゃった日も、僕はユイちゃんの家に行って、一緒に『きらきら星』を弾こうと思っていた。 あの日は朝から雨が降っていて、ユイちゃんは学校から帰っている途中に、スリップして歩道に突っ込んできたトラックにひかれてしまった。 ユイちゃんの小さい体は大きなトラックの下敷きになって、即死だったと後から聞いた。 数日後ユイちゃんの家族は引っ越してしまったけれど、あの大きなピアノがどうなったのか、僕は知らない。
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