1・沙希24歳、冬

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良かった。 ちゃんと笑顔で、祝福の言葉、言えた。    ――などと、ポスターを眺めながら、10分ほど前のことを思い出していたら 「沙希。なんで階段の途中で、ボーッと突っ立ってるんだ」  頭の上から、ハスキーな、というよりボソボソした低ーい声が降ってきた。  振り返らずとも、声の主はわかる。 「あれ、裕生(ゆうせい)。おかえり。でも大学ってまだ休みじゃないよね」  背後に立っているのは、わたしよりも身長が30cm以上高い、幼なじみの裕生。 「下宿の隣の部屋が火事出してさ。しばらく、こっちから通うことになった」 「えっ、大変じゃん」 「まあ、留守中のことだったから。でも本棚が水、被っちゃって、本がだいぶダメになった。保険で弁償してくれるらしいけど。パソコンが無事だったのが、不幸中の幸い」  彼は都内の薬科大に通っている。  現在、大学5年生だ。  
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