1・沙希24歳、冬

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「ふーん。ね、このポスター、素敵だなと思って見てたの。そう思わない?」  裕生は眼鏡のブリッジに指をそえて、5秒ほど、ポスターをじっと眺め、「そうかな」とつぶやいた。    それっきり、コメントなし。     理系男子の裕生は、アートにはまったく興味がないらしい。  いや、アートに限らず、裕生が素っ気ないのはいつものことだけど。    でも、このクールな反応が、今のわたしには大変ありがたかった。  同調して絶賛されたら、今の精神状態ではちょっときつかった、たぶん。 「電車、来ちゃうね。行こう」 「ああ」 「お父さん、喜ばれるんじゃない? 寂しそうだったよ、最近とくに」 「ああ」  もう。「ああ」以外の言葉、知らないのかな、本当に。  バイト先のターミナル駅から、支線に乗り換えて、2駅。  そこがわたしたちの住む町だ。 「寄ってく?」  改札を出ると、裕生は駅前の居酒屋を指して言った。
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