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【序章】『アキタコ』
「何がいけないっていうんだっ!」
青春を謳歌していた中学生の頃、人を好きになることを否定されたことがあった。夕陽の中に一人の女の子、黒髪の長い、推定155㎝の華奢な子だった。
「どうしてわからないの? それっていけないことしてる意識がいないってこと? もしそうならわたし、明道くんのこと許せない……。絶対に許さない」
ナメクジのように近づいてくる。音もなく、表情もなく、ただ淡々と。
「最初はわからなかった。どうして明道くんがそんなことするのか。でも最近になってわかったような気がしたの」
止まった。机に挟まれた女の子の口元が吊り上がる。眉間にしわを刻み、細めた目から涙が静かに流れていた。
「明道くんにとってわたしはその程度なんでしょ」
「違うんだっ!」
目の前の邪魔な教卓を倒してでも駆け寄り、一刻も早く抱きしめて、誤解を解きたかった。しかし、踏み込むはずだった足が落ちた。視線がスライドして女の子の顔が消えた。そして。
ガンっ!!
ひやっとした何かが頭を回っていくような感覚。地面から背骨を掴まれているかのように起き上がることができない。
視界は徐々にかすれていった。赤黒い何かが視界の端に映り、あぁこれはとその正体に気付く。
声が上手く出なかった。悲鳴のような突き刺さる音を脳はぼんやりと捉える。五人の中で一番好きだと伝えたいができない。ガンっと遠くで鳴り、冷たい床が微かに震えた。
なんでこうなった、何がいけなかった、どうすればよかった。
鈍りゆく思考が後悔の暇を与えずに、ゆっくりと溶けてなくなるように形を失っていった。
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